長年「アトリエデフ」で木を使った家づくりに携わり、さまざまな団体による森林整備のフィールドにも参加してきました。そして、日本の森がだんだんダメになっている、つまり森の本来の機能が失われつつあることがわかったのです。

木は二酸化炭素を吸収し、酸素を発生させています。それに、木は地面に根を張ると、土石流などをブロックしてくれます。しかし、管理されていない森は木が深く根を張ることができません。その結果、雨が降ったり風が吹いたりして木が薙ぎ倒され、土石流という凶器になって里へと流れてしまうのです。いま問題になっている地球温暖化や土砂災害も、要因は、こうした森の管理にある。だったら、自分の手で管理がしたくなりました。

そこで、何のつてもなく長野県庁林務部を訪ね、管理させてもらえる森はないかと聞いたのです。突然の訪問だったにも関わらず、担当者が快く対応してくれ、県内のいくつかの森を一緒に見て回ってくれました。こうしてたどり着いたのが、原村のこの森でした。ここに決めたのは、ほかの候補地が急傾斜地だったのに対し、平地で、子どもたちが来ても遊べる森だと思ったから。諏訪南ICからのアクセスもよく、道がわかりやすかったことも決め手となりました。そして「エコラの森」と名付けました。

森が管理されて土がよくなると、雨水が土に浸透し、長い時間をかけて浄水されます。地球も人間の体も、およそ7割が水からできています。つまり、水は私たちの健康に直結しているのです。その大切な水を山や森がつくってくれ、さらに空気もよくしてくれるのですから、森を育てないと私たちの未来はありません。森づくりからはじめないといけないのです。

いまから60~70年前、日本の山には多くのスギやカラマツが植林されました。その木が使われなくなった理由は、外国から安い輸入材が入るようになったからです。それにより、国産材が使われず、森が管理されなくなりました。ただ、建築用材に最適な木材は60年から80年生の木であることから、日本の山の木は、まさにいま使うべきときを迎えています。いま使わないと、老木になって使い物にならなくなってしまう。森をつくるというのは、適した国産材を使うという意味もあるのです。

また、エコラ倶楽部では、どんどん山から遠ざかっている人に森に来てもらうために、毎年「エコラの森のなつまつり」を開催しています。毎回400人ほどの親子連れが参加し、一日、森の中で遊んで帰ります。この体験を通じて森の楽しさを知った子どもたちに、将来「またあの森に行ってみよう」「あの森の木を使って家をつくりたい」と思ってもらえたら。そう願って活動をしています。いまや多くの人がこの活動に賛同してくれ、会員になってくれました。決して強制でも義務でもないのに、皆さんが活動を楽しみに「エコラの森」に来て、きれいになったと感じてくれている。それこそが、私のやりがいです。森づくりの活動も、いまでは小谷村をはじめ、長野県内外に広がっています。

森は人間だけのものではありません。私がめざすのは、その土地に合っている木が自然と生えてくる、鳥もサルもクマも住める森です。整備されていない森には、動物が食べるような実のなる木がほとんどありません。これは、人間が人間のためだけに勝手につくった森だからです。

私だって、クマに遭遇すれば恐怖を感じます。そのクマは、森に実がないから人里におりてくる。そして、人が銃で打つ。そう考えると、人間ってなんなのでしょう。ニホンオオカミを絶滅させたのも人間です。いま、ニホンジカの増加により生態系や農林業の問題が浮上していますが、シカにとって天敵であったニホンオオカミがいなくなったことも増えている理由です。それを人間が駆除する。循環しない悪影響が生まれています。

そうしたなかで、これからの展望は、もっとエコラ倶楽部の会員が増え、管理された森が日本中に増えていくことです。最近は森林整備だけでなく竹林整備にも力を入れていますが、それも山を守るための活動です。竹の生命力は強く、すぐに成長して地面への光を遮ってしまいます。そうすると植物の光合成が妨げられ、山の木は枯れてしまうのです。そこで、竹林整備にもチャレンジしつつ、これからもきれいな森をつくり続けていきます。